5.添付資料

2)旧沼田警察署分署(後の糸之瀬役場)の文化財建築物としての所見

 当該建築物は、年譜に示したように、明治20年(1887)に当時の糸井村が建築し、沼田警察署分署として寄付したものである。その後、明治29年に糸之瀬役場、昭和24年(1949)に郵便局に転用された後、貸し住宅として近年まで使用されてきた。県内に現存する明治期の警察署庁舎としては、旧松井田警察署(※1)があるが、役場庁舎としては県内最古である。また、全国的に見ても、文化財建築物として指定または登録されている警察署庁舎の中では、建造時期の古さから、5,6番目(※2)に入る貴重な建物である。

 建物の特徴は、北面した玄関部分を伝統的な社寺建築の技法を用い、全体的に簡素である。積極的に和洋折衷建物という範疇にあるとは言いがたいが、印象としては洋風建築の雰囲気を備えている。現存する建物は、3世帯の住宅で使われていた間取りが残り、かなりの破損が進んでいると見えるが、調査の結果、破損部分は、後補の住宅部分で、旧警察署庁舎として建てられた当初部分は、比較的健全に残っていることが判明した。

 主体部分の規模は、東西6間、南北4間の総2階の建物である。1階は、玄関部分を挟んで東西2間幅で、3区画に分かれている。2階は、現在のところ1部屋で使われていたと判断できる。外周は、開口部分を除き、半間毎に4寸3分程度の柱が建つ、かなりしっかりとした構造の印象を与える。仕上げは、内外部共、しっくい壁、天井は、1階が根太天井、2階は小屋裏表しのようである。階段位置は現在のところ不明である。また、現状では当初の室用途までは判断できないが、当初部分主体部の復原は可能である。

 残存する当時の役場、警察署等の庁舎は、地域や地区の顕官等が威信をかけて建造している、擬洋風と言われる当時の知識と大工技術を駆使した建築物である。一方で、小学校などの例はあるが、当該建物のように、地域の治安を守るために、簡素ではあるが、地域住民が力を合わせ造り上げた歴史を物語る建築物があり、全国的に見て数少ない貴重な例である。

 本の歴史を物語る貴重な建築物であり、当初建築物の十分な骨格が残っていることから、復原整備を行い、地域文化財として活用し、後世に長く伝え守られるべき建築物であると判断する。

特定非営利活動法人 街・建築・文化再生集団

理事長 星 和彦(工学博士・前橋工科大学教授)

理 事 後藤 治(工学博士・工学院大学理事・教授)

※1 旧松井田警察署:明治9年に松井田宿旧金井本陣金井菊太郎宅に巡査屯所が置かれ、翌10年に購入、留置場などが設置され、警察署として昭和14年まで使用された。その後、仲町公会堂となり現在に至っている。

※2 旧鶴岡警察署(明治14年(1884))、旧本庄警察署(明治16年)、旧宇和島警察署 (明治17年)、旧生野警察署(明治19年)、旧檜山爾志郡役所・警察署(明治20年)、旧登米警察署(明治21年)