実測調査を基に復原図の作成を行う。但し、詳細については、今後の解体調査等で確認することを望む。図面等文献資料が不明なため、部屋配置・復原等は現状では不可能である。今回の作業は、当該建物の保存・活用に向けて、はじめの一歩を踏み出す目的で行うものであり、平面の正確な復原は提案できない。
実測調査で判明したことを下記に記す。
現在、各地において、歴史的建造物、特に地域文化財の建物が、その地域の活性化をもたらすものとして、再活用が望まれ、修復されている。しかし、多くの建物の保存復原や修理改修は、宮大工、町場大工と呼ばれる棟梁に引き継がれた伝統技術によってなされてた。近年、阪神淡路大震災を契機に、構造技術者が関わり、耐震性能について考えるようになったが、棟梁たちの体で覚えた伝統技術を、数字で取り扱うのは非常に困難で、その仮定の設定の仕方で、補強内容が大きく変わってしまい、棟梁たちの伝統技術や建物の文化的価値の保存・継承に相容れないものが多くあった。
構造技術者は、現場でその建物を前にして、棟梁と総体的なこの建物の出来方、力の流れ方について、考えを一致させる事で、そして、部材(梁・柱)の特徴、仕口・継手の手法を理解する事である。私たちが今行おうとすることは、活用を前提とした「保存の為の修復」である。そしてこの地域を表す大切な歴史的建築物であり、貴重な地域文化財である。そこにはその時代の技術と材料、地域文化を未来に伝えて行く「伝承」と言う責任を持っている。この事を常に念頭に置きながら補強を考えなければならない。
1)耐震補強はあくまで仮の補強である。
長い年月を経た歴史的建造物は一部では、補強さえもいらないという意見もある。前にも述べたように最大限オリジナルを残して行く事が重要課題になり、将来、技術の発展でその補強がいらなくなる場合は、除去できる手法でなくてはならない。再度復原できる事も重要である。
2)木造は非常に高寿命な材料である。
木質建造物の耐久性劣化の要因は「構造材」の劣化である。もともと木材の寿命は非常に長く、本来であれば1200年近い寿命があるとされている。しかしこれは適した環境下の場合で、シロアリや腐朽菌にたいする処置、湿気等の対策が必要となる。このことは、木材の力学的性能劣化は、虫害・腐朽等が無い限り、経年による影響をさほど受けないと考えている。原材料の力学的性能を確認する事より、蟻害、腐朽部材をいかに上手く修復していくかにかかってきます。
3)歴史的建造物の構法の特徴による補強
歴史的建造物イコール伝統構法であり、社寺建築、極太柱の民家建築から、柱も細く、現在の在来軸組構法に近い形のものもある。この構法の違いを把握した上で耐震補強方法をとらなくてはならない。
・今回の簡易耐震診断及び耐震補強診断は(財)日本建築防災協会監修「木造住宅耐震診断プログラム(一般診断法)Ver2.10を使用した。