活動内容

@地域の歴史的建築物・景観資産
A景観保全と地域の歴史的建築資産の再生・活用実験
B地域住民との研修会
 ■第一回研修会
 ■第二回研修会
 ■第三回研修会
 ■第四回研修会

B地域住民との研修会 ■第一回研修会

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・日時 2010年10月26日(火)
・時間 13:00〜14:30
・会場 昭和村役場会議室
・参加者 昭和村農業委員・村長・行政職員・
商工会・住民 計38名 機構 2名
RAC 5名

研修会の主旨

 国交省の平成22年度長期優良住宅等推進環境整備事業(住まい・まちづくり担い手支援事業)では、昭和村糸井地区の旧北勢多郡役所(旧糸之瀬村役場。その後警察分署であることが判明した)を中心とした地域の集落景観、およびそれらをいかすまちづくりのありかたの調査を実施した。地域資源として最も重要である農業と、それにより形づくられてきた集落景観とが上手く融合したまちづくりのありかたを、昭和村で検証できると考えたからである。しかし、景観をいかすまちづくりという主題自体、必ずしもわかりやすいとはいえず、また住民にとって共通の認識が確立されているともいえない。そこで、景観とまちづくりというこの事業の目的により具体性と展望を与えるため、外部から招いた講師による講演をとおして、昭和村を客観的な視点から評価してもらいつつ、景観とまちづくりの共通認識を構築するための研修会をおこなうこととした。

■研修会の開始にあたっての事前調整

・日時 2010年10月26日(火)
・時間 10:00〜12:00
・会場 昭和村商工会会議室
・参加者 講師 2名 地域住民 5名 機構 2名
RAC 5名

 第一回研修会にあたり、今後の農業のありかたやまちづくりの問題に関心をもち、この事業の核となると期待される糸井地区の有志と講演会の講師の懇談会を、研修会当日の午前中にもつこととした。今後の事業全体と、一連の研修会の進めかたについて住民、講師双方の考えを聞き、示唆を得るためでもある。住民のかたからは、昭和村の農業の現状や抱える問題などに関して、意見を提示してもらった。一方講師には昭和村の現況を理解してもらうとともに、講師が昭和村や農業に関して考えるところについてコメントをいただいた。話題は昭和村固有の農業やまちづくりの問題から、TTPのような農業を取り巻く国際問題までおよんだ。

□第一回研修会の内容

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 昭和村の農業委員会に先立って農業委員を中心に第一回の研修会を企画したのは、まちづくりを考えていくうえで主要産業である農業自体のもつ今後の問題点を明らかにするためと、それを最も身近に感じている農業委員に講師の話しを聞いてもらうためである。講師には、全国で農山村の地域資源をいかしたまちづくりの実践に関わっている福井隆先生と真島俊一先生をお招きした。
 福井先生は東京農工大学大学院客員教授、地域生存支援LLP代表、NPO法人日本エコツーリズムセンター理事を務められている。全国で農山村の地域振興・まちづくり等に幅広く活動され、とくに、農業を始めとした、様々な地域資源の掘り起こしや、それらのブランド化をとおして次世代に通じるまちづくりの提言をされている。昭和村は、『日本で最も美しい村』連合への加盟からもわかるように、活き活きした農業があり、豊かな自然景観や集落景観にも恵まれている。昭和村が持っている農業を中心とした地域資源を有効に活かし、次世代をみすえたまちづくりのありかたについてお話しいただくには最適のかたと考えたからである。
 真島先生は、(株)TEM研究所代表、日本生活学会前副会長、道具学会理事、トヨタ財団研究助成団体審査委員を務められている。全国各地の生活文化を中心とした調査・研究活動を行っており、地域固有の伝統文化を活かしたまちづくりの提言や整備事業に携わる幅広い見識をおもちで、昭和村にはすでにトヨタ財団研究助成成果発表の街・建築・文化再生集団研究集会の折りにきていただいた。生活文化を研究されている立場から、一方の地域資源である集落景観と民家から考えるこれからの生活像について、お話しいただけると考えおいでいただいた。
 福井先生は、昭和村の諸特徴を整理するとともに、問題点の抽出から成功へといたったまちづくり事例を紹介された。講演は「昭和村」というスライドを基礎に進められ、「営みの風景がある村」として昭和村を捉え、その要因を住民、自然環境、風土、そして農業生産から分析することをとおして、地域ブランドの重要性と必要性を指摘された。ブランド化はトレンドの影響を受けにくく、村の個性を認識しうるものなのである。農業を取り巻く状況は厳しさを増しているが、昭和村ではその危機への意識が弱い点が指摘された。昭和村の農業は豊かではあるが、それを持続させることを考えていかなくはならない。このような公益的な事業は担い手が住民であり、その視点から自らの足元を見直すことが必要となっている。そうしてみいだされる個性を活かすことが将来への希望を創りだすのである。均衡ある発展が、地域が個性を喪失している現在、地域再生の鍵となる。地域資源をまちづくりに結びつけた事例から理解されるのは、「人を呼ぶ」のではなく「人がくる」ようにその資源を活かす仕組みを造ることといえる。「地域の個性を生かすと、農物の価値が上がる。」本質を読み取り個性を生かすことが価値を高めるとまとめられた。
 真島先生は、自然、地形、歴史、農業から昭和村を捉え直し、今後への方向性を語られた。一年をとおして、何らかの作物が生産されている状況から、まず農作業の忙しさを昭和村の特色とされた。河岸段丘上部の宏大な風景は北海道を想わせるものがある。その風景のなかに建物が残っているが、必ずしも生活とは合わなくなっている現実もある。こうした景観と生活を、快適に楽しくかつ安心に暮らせるものとしていかなくてはならない。しかし、これからこうしたいという生活の要求の責任は住み手にあると指摘された。こうした点に関連し、生産の方式にも昭和村の方式があるとされる。そして新しい風景を生みだす時代へ向かうとき、歴史が提示した形をみいだしていくことが大切である。さまざまな要素が生活に関係してくるが、その基本は地元でやる、ということにある。「過去を握りつぶしたところは、個性も育たない」と述べられた。
 研修会としては時間が限られたこともあり、質疑応答に充分な時間をとることができなかった。講師の話しを聞くことが第一となってしまったが、感想には、昭和村の特徴についての再確認をしたという意見や、昭和村の置かれている状況に関して考えていこうとする意見が聞かれた。反面、農業が忙しく、それ以外のことは考えられないと声もあった。時間的な制約だけでなく、福井先生の指摘されたように、農業が順調である昭和村では、現状に対する問題の把握は必ずしも充分でないことがわかった。次には、住民の声が反映されやすい研修会の方法も検討することが、事業を進める私たちの課題でもあることが明らかになった。