今年度も計画では、歴史的建築物を調査選定して再生提案と実験活用を行う予定であったが、行えなかった。但し、研修会の会場として、糸井の高橋家(糸屋)ご好意でお借りして開催することが出来た。参加者の方々には、古民家での集まりは好評であった。古民家を活用して、農産物の販売や食事の提供を検討したいという住民も出てきた。研修会では、昭和村ブランド創りの一環として議論してきた。
昨年同様、再生をテーマに住宅無料相談を行っているが、現在までのところ成果はあがっていない。今後も諦めず活動を続ける予定である。
図-11 住宅相談チラシ(6回開催)※チラシはクリックで拡大 | |
昨年度から継続している活動である。当初、この建物は北勢多郡役所ではないかと言われてきたが、調査の結果、明治20年に旧糸井村で建造し、寄付されたものであることが判明した。
図面作成は、平成22年度大成建設自然・歴史環境基金助成事業で行った。
建物は、近年まで3住戸の貸家として使われていたが、後補の住戸部分の破損が著しく、RACが保存・活用を訴えるまでは、地域住民から解体の要望が上がっていた。敷地には、消防のポンプ小屋(地下に消防用水槽がある)・付属便所・物置(撤去予定)と火の見櫓(保存)がある。ポンプ小屋は、現村長加藤秀光氏が糸井地区の消防団長をしている時に建てられ、その工事で玄関破風の端部が一部切り取られている。また、現在ここはゴミの収集場所にもなっている。建物周囲はかなり荒れ果てた状態である。
現状の保存状態は良くないが、村内には社寺を除き、公共の歴史的建築物の存在は確認されておらず、唯一、この旧沼田警察署分署(旧糸之瀬役場)だけが存在している。後述するが、調査の結果、全国的に見ても、警察署の建物として数少ない貴重な建物である。
活動は、住民に先ず、主要部の破損は少なく、比較的健全であることを訴え、村の文化財として貴重なだけで無く、これからの地域づくりに重要な役割を果たし、保存・活用すべき建物であるという認識をもってもらうことから始めた。
昨年度からの活動の経緯は、
事業受託後、ワークショップとして、先ず、住民の手でお掃除会を行う。
『群馬県史』・群馬県利根教育会編『利根郡誌』1930年 群馬県利根教育会・糸乃瀬村誌編纂委員会編『糸之瀬村誌』1958年 糸乃瀬村誌編纂委員会
平成4年度に群馬県から上梓された「群馬県近代化遺産総合調査報告書」には、当該建物について、「糸之瀬役場(旧北勢多郡役所?)」明治23年建造との記載があるが、前記の資料から、関連する郡役所・警察署関係の記事を年順に並べると以下になる。
これらの文献資料から、当該建物は、明治20年建造の旧沼田警察署分署であると判断した。文献からは、当初糸之瀬役場と共に、糸井地区が建設し寄付をしたことが判る。糸井は、現在も大規模養蚕民家が数多く残っていることから、当時はかなり裕福であったことが想像される。
住民としてどのように活用したいか。RACとしてどのような提案が出来るか。
当初の計画では、当該建物を住民の手で部分的に再生し実験活用までが目標であった。今回の事業では、掃除、片づけ、建物調査及び活用提案までしか行えなかった。しかし、この事業の成果としては、地域の厄介者から、所有者が村となり、住民・議員・村が真剣に、保存・活用に向けて動き出し、村指定文化財へ向けて一歩踏み出すことが出来たことにある。
住民・RAC・工学院大学後藤研究室で行う。
実測調査に基づき、復原図を作成。活用を考え簡易耐震診断を行う。
宮澤智士先生(長岡造形大学名誉教授・元文化庁文化財部建造物課々長)に監修して頂き、RACで文化財としての所見を作成。昭和村指定文化財を目指す。
県内には現存する明治期の警察署庁舎は、旧松井田警察署とこの旧沼田警察署分署だけであり、当該建築物は旧松井田警察署(※1)についで古く、また、現存する役場庁舎としては県内最古である。また、全国的に見ても、文化財建築物として指定または登録されている警察署庁舎の中では、建造時期の古さから、5,6番目(※2)に入る貴重な建物である。当時の役場、警察署等の庁舎は、地域や地区の顕官等が威信をかけて建造している、擬洋風と言われる当時の知識と大工技術を駆使した建築物である。一方で、小学校などの例はあるが、当該建物のように、地域の治安を守るために、簡素ではあるが、地域住民が力を合わせ造り上げた歴史を物語る建築物があり、全国的に見て数少ない貴重な例である。
建物の特徴は、北面した玄関部分を伝統的な社寺建築の技法を用い、全体的に簡素である。積極的に和洋折衷建物という範疇にあるとは言いがたいが、印象としては洋風建築の雰囲気を備えている。
当該建築物は、昭和村だけで無く広く日本の歴史を物語る貴重な建築物であり、当初建築物の十分な骨格が残っていることから、復原整備を行い、地域文化財として活用し、後世に長く伝え守られるべき建築物であると考えている。
□宮澤智士先生(長岡造形大学名誉教授・元文化庁文化財部建造物課々長)の監修
調査結果及び図面を見て頂き、現地に出向いて監修意見を頂いた。
私たちは、以上のご意見を基に、すでに、住民意見を入れて、昭和村に対し、当該建物の文化財指定を働き掛けている。
※1 旧松井田警察署:明治9年に松井田宿旧金井本陣金井菊太郎宅に巡査屯所が置かれ、翌10年に購入、留置場などが設置され、警察署として昭和14年まで使用された。その後、仲町公会堂となり現在に至っている。
※2 旧鶴岡警察署(明治14年(1884))、旧本庄警察署(明治16年)、旧宇和島警察署 (明治17年)、旧生野警察署(明治19年)、旧檜山爾志郡役所・警察署(明治20年)、旧登米警察署(明治21年)
昭和村のこれからについて、ワークショップを通じて住民と私たちは議論をしてきた。その中で、生業である農業と地域資産である歴史的建築物ともに、これから目指す昭和村ブランドの重要なファクターであることを学んできた。そこで、昭和村ブランドに相応しいいくつかの活用提案をしたい。
□活用提案 ・むらコンシェルジュ(Concierge de Showa) ・むらカフェ−憩いともてなし ・むら市場(Marche de Showa) −昭和村でなければ得られない食材・レシピ ・むらアトリエ−ジオラマ工房−作業場 ・むら展示室−企画展示 ・集会室・会議室(開放) |
□組織提案
図-13 運営組織図
図-14 提案配置図 | 図-15 提案平面図 |
図-16 提案立面図 | 図-17 現況平面図 |
図-18 現況断面図 | |
※図-14〜図18はクリックするとPDF形式ファイルが開きます。 PDF形式のファイルを利用するにはADOBE READERが必要です。 |