公益信託大成建設自然・歴史環境基金
平成22年度 助成活動・研究報告書

本プロジェクトの経緯

 本プロジェクトの発案者である学校法人工学院大学後藤教授は、東日本大震災発生前から日本の歴史的建造物の修復に関わる人材不足について危機感を抱いていた。震災後の歴史的建造物修復に対する人材不足の状況を目の当たりにし、改めて日本国内だけでの人材では日本全国の歴史的建造物保存にはとても手が回らないと考え、日本同様に木や土の建築文化を持つアジアの建築技能者に着目したことが本プロジェクトの発端である。

今回の活動と同時に申請していた「住まい・まちづくり担い手支援事業−近代産業遺産である養蚕民家再生と景観まちづくり PartT、U」が 採択された。このことにより、両事業を連携させ、貴基金で予定していたワークショップ等は、住まい・まちづくり担い手支援事業で行うこととした。したがっ て今事業は、当該建築物の調査及び、将来の活動拠点としてワークショップで取り上げる活用計画案の作成を主とした活動とした。当報告書は、その活動報告と して纏めたものである。

 アジアの中でも特にベトナムの建築文化は古来、木と土により成り立っている。日本の左官文化に似た技術が現代に於いても用いられている等、日本との類似点が非常に多いことが決め手となり本プロジェクトにて技能者募集を行う国として選ばれることとなった。またベトナムの技能者のほとんどはいわゆる多能工であり、震災後の建築現場における全職種が人材不足となっている状況を打破する為には非常に有効な人材であると推測された。

 2012年4月からベトナムにおける技能者の募集を行うと同時に研修受け入れ先となる地域の選定を始め、当初は茨城県桜川市真壁町、宮城県柴田郡村田町が候補として挙げられた。両地域共に震災後の歴史的建造物修復が人材不足(特に左官不足)により進まない状況にあり、本プロジェクトに対する地元関係者の期待も大きい様子であった。

 NPO法人RACは後藤教授に本プロジェクトに対する全面的な協力を約束し、助成金の申請・取りまとめの業務を行うと共に東京事務局を設置。NPO法人RAC東京事務局が本プロジェクトの窓口となり研修生の募集・選考、ビザの取得、受け入れまでの各種調整、研修先との調整、研修中のサポート等を行った。

 後藤教授と旧知の仲である建築家・吉田晃氏は2010年よりベトナムにて活動を展開しており、ベトナム国内の建築業界における繋がりを持つことからアドバイザーとして本プロジェクトに参画することとなった。また吉田氏の元ベトナムでの実務経験を持つ首藤(工学院大学後藤研究室卒業、NPO法人RAC東京事務局)がプロジェクトの担当者となった。

 2012年6月にはベトナム・ダナンにおいて第一回の研修生候補との選考面接が実施され、同年7月に第二回の選考面接が実施された。第二回選考面接により経験・技量共に選考基準を満たす技能者グループ(3名)が有力候補となり、日本来日に向けた具体的な交渉に入っていた。当初は技能者グループが1年間日本に滞在し、修復現場で実務に携わりながら技術研修を受けることを計画していたが、資金調達の問題や大学を卒業していない職人の長期滞在のビザ取得が困難であること等から人数と滞在期間を見直すこととなった。

 本プロジェクトの母体は工学院大学であり、工学院大学はベトナム・ダナン大学と友好協定を締結している。工学院大学の事業として理事会承認を得る為にもダナン大学との関係性を示す必要があり、その点からも技術的・経験的観点からのみ選考を行った技能者グループでは難点があった。

 上記の理由からプロジェクトの推進が難航している中、研修受け入れの候補地であった茨城県桜川市真壁町、宮城県柴田郡村田町ではそれぞれ被災した歴史的建造物の修復が進められ、研修生受け入れを予定していた物件も次々に工事が完了していった。

 2013年8月に当初の計画を大幅に見直し、まずは将来の展開を見据えた足掛かりとして1人の技術者を1ヶ月間、複数の現場を経験することで日本の木造建築に関わる知見を広く持ってもらうことを目標に研修を行うこととなった。技能者ではなく技術者とした理由は大学を卒業していることでビザ取得が容易である点や、将来来日する技能者グループの管理者となり得る点等が挙げられる。

 2013年ベトナム・ダナンにて第三回選考面接を実施。ダナン大学学長Nam氏の子息であるHoai氏が代表を務める建築事務所所員Vu氏が研修生候補として選ばれた。

 その後、関東にて文化財建造物の修復を手がける有限会社岩瀬建築、木造住宅を主に手がける未来設計株式会社、株式会社細田工務店、等の協力を頂けることとなり、2014年2月ベトナムよりVu氏が来日。研修を実施する運びとなった。

関係組織・関係者

  • 学校法人工学院大学 : 事業母体
  • 後藤治教授(工学院大学理事・NPO法人RAC理事) : 事業発案者
  • NPO法人RAC : 窓口業務、各種調整、研修サポート
  • 株式会社アーク・アイ・コーポレーション : 窓口業務、各種調整、研修サポート
  • 吉田晃(吉田晃建築研究所) : アドバイザー
  • Tran Van Vu(ダナン大学卒業・建築事務所勤務) : 本プロジェクト研修生
  • Tran Van Nam(ダナン大学学長) : 研修生推薦人
  • 有限会社岩瀬建築 : 研修協力
  • 未来設計株式会社 : 研修協力
  • 株式会社細田工務店 : 研修協力
  • もぎ文化研究所 : 研修協力
  • NPO法人たいとう歴史都市研究会  : 研修協力
  • 谷口武一(真壁町谷口家22代当主) : 研修協力
  • Ta Thi Khanh Hoa(早稲田大学商学部) : 通訳
  • Trinh Tomita(個人通訳業) : 通訳
  • Mai Tsuchida(個人通訳業) : 通訳
  • Pham ha linh(宇都宮大学建築学科) : 研修サポート、通訳
  • 齋藤ふみや(工学院大学建築学科) : 研修サポート